彼の隣で乾杯を
タヌキの弱点、それは奥さんのシノブさんだ。

正月に親父の実家に挨拶しがてら隣の久保山会長のご自宅に顔を出したら、ちょうど神田部長夫妻も来ていたのだ。

「初孫ができて嬉しいのはわかるんですけど。孫の可愛い瞬間を残しておくんだと言ってカメラを買ったら今度は一眼、そしてレンズって拘り始めてしまって。こんなにいらないって言ってるのに次々と買ってくるんですよ」
シノブさんは夫の友人である久保山会長夫婦に愚痴っていた。

「一体どのくらい買ったの」

会長の質問にシノブさんはため息と共に「カメラが6台。レンズはサイズいろいろで寝室の棚3段分。大きなものは燻製を作るための煙突になるんじゃないかって思ったくらいのサイズですよ。あんなもの寝返りも打てない孫相手にどうやって使うんだか」と不満を吐き出した。

その場にいた誰もがカメラもレンズもそんなにいらんだろと思ったのだが、タヌキは「だってハナちゃんが可愛いから~」と口を尖らせていた。

神田家の娘の真智が第一子のハナちゃんを出産したのは先月だ。

この一ヶ月でどれだけカメラ関係で散財しているんだって話で。
もちろんタヌキはわが社の大株主でもあるしタヌキの収入もかなりあるだろうから、カメラやレンズに拘ったくらいで神田家の懐は痛くもかゆくもないだろうけど、シノブさんが言いたいのはそんなことじゃない。

ちょっと買いすぎだろう。
おまけに大好きな奥さんのことも撮りまくっているらしいからシノブさんは辟易している。

結局会長の前でこれ以上買わないと約束させられていたはずだ。
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