彼の隣で乾杯を
「さて、何から説明しようか」
「なぜ私が指名されたのか、そこからお願いします」
小会議室に移動した私たちは向かい合わせに座っていた。
主任の目を睨むように見つめると、主任はふっと笑った。
「そんな怖い顔をするな。美人だから怒っても綺麗だけど、やはり怒った顔より笑顔が見たい」
「ハラスメント発言ですよ」
「俺は薔薇姫の笑顔が好きだから」
「小林主任、アタマ大丈夫ですか?」
真顔で言い返すと「ま、今はいいか」と視線を逸らされた。その表情が珍しく一瞬曇ったことに気が付いたけれど、指摘するつもりはない。
「私が召集されたのはアンドレテ社のことがあるからですよね」
「それも一因だけど、もちろんそれだけじゃない。実力だよ。上が認める実績を積んでいる」
「アンドレテのことがなかったとしてもですか?私より有能な人間がここにはたくさんいます。その人たちを差し置いて私がここにいるのはやはりアンドレテ社のことがあるからですよね」
「ずいぶんと卑屈な言い方だね。自分の力を信じてないのか?」
「私にはまだそこまでの力があるとは思えませんから」
「俺はそうは思わない。君には実力があるよ。アンドレテ社の契約も君の努力の成果だ。それに、今回アンドレテから契約を取った実績だけで君が選ばれたわけじゃない。
でも気になるのならイタリア案件は全て佐本由衣子に任せておけば間違いがないと周囲に認めさせるような働きをこれからすればいいさ」
穏やかに、でも力強い口調は3年前と変わらない。