彼の隣で乾杯を


ランチ替わりのヨーグルト味のゼリー飲料を咥えながらパソコンのキーボードを叩いていると、フロアの空気が変わったような気配がして顔を上げた。

その男性は真っ直ぐ私のデスクに向かって歩いてきている。
顔のパーツが整いすぎてて不気味。
噂通りまるでサイボーグのようだと思った。

表情筋の死滅した如く硬い顔をしたやせ型で長身の男性は社長秘書の林さんだ。

まさか私に用が?

社長直轄のプロジェクトというものの実際に私たちプロジェクトメンバーが社長に対面したのは初日だけ。
主任が社長と連絡をとっていて今まではここに社長もその秘書も現れることはなかった。

何の用事なんだろう。
今、緊急を要するものはなかったはずだし、用事があるのなら秘書室に呼び出してくれればすぐに行くのに。

それにこの会社はどうしてムダにイケメンが多いんだろう。
目の保養になってありがたいけれど、イケメンだから余分な注目を集めるってこともある。
仕事の会話をしただけで早希のようにこのイケメン社長秘書と何らかの噂になってしまうのならホントに迷惑だ。

「佐本さん、少しお話が」
無表情の社長秘書は無表情のまま私に声をかけてきた。

少し前に早希と噂になっていた男。
根も葉もない下らない噂だってことはわかっている。
ただ、この表情筋が死滅したようなサイボーグ顔した男が早希の前では笑顔を見せるというのだ。
でも、人間なんだから笑うことだってあるでしょ。
そんな事で二人が付き合ってるなんて噂を流すヤツの脳みその細胞の方がかなり死滅しているんじゃないかと思うんだけどね。

フロアのあちこちから視線を感じる。
私のデスクに副社長の次は社長秘書がお出ましになって私の悪評にまた一つ追加事項が加わってしまうのだろう。

「どういったご用件でしょうか」
ビジネススマイルで答えると、
「5分お時間を頂けますか」
と場所を変えるようにと目で伝えられた。

このフロアにはパーティションで仕切られた打ち合わせスペースもあるのだけれど、内密な話ではないというのであえて奥のオープンスペースのテーブルに移動してもらった。
パーテーションがなく皆の視線にさらされるが、詳細な話は聞こえないという場所だ。

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