彼の隣で乾杯を
「申し訳ございません、わたくしからご挨拶に伺うべきでしたのに」

「いいんだよ。どうせ来てすぐにエディーにつかまったんだろう」

そうなんですよ、あなたのとこの息子に羽交い絞めにされてましたし、できればお二人にもお会いしたくなかったんですと言いたいところをぐっとこらえて微笑みを作った。

「お父さん、お母さん。この場で僕とユイコの婚約発表するっていうのはどうだろうか」
さらっと爆弾発言をする御曹司。

「な、何を笑えない冗談を」
慌ててエディーの袖を引っ張る。

婚約だなんて、この場の招待客のほとんどのイタリア人はいつもの冗談だと笑って流すだろうけど、ここは日本だ。日本人の何割かでも本気にしたらどうするの。

株価が!アンドレテ社の株価が!わが社の株価も!
いやアンドレテ社の御曹司の結婚なんて世界規模で株価が動いちゃうからっ。
不用意な発言はやめて欲しい。本気で。

「1年前は好きな人がいるって断られたけど、でもユイコは未だに恋人がいないっていうじゃないか。そいつとうまくいかないのないのなら、そんな奴はもうやめてユイコは僕に全力で愛されればいい。その方が幸せになれる」

なんて強引な。
だいたいあなたには世界中に愛人がいっぱいいるでしょう。
エディーの派手な女性関係は有名だ。

「エディー、ちょっと待って。それはきっぱりとお断りしたじゃないの」

「そうだな。ユイコとなら私も大賛成だよ」
父親の社長がぽんっと手を合わせた。
いや、社長もそこは反対しましょうよ。

笑顔の社長にクラクラと眩暈がしそうになる。

この2年ほどこの社長夫婦と顔を合わせるたびに冗談で息子のエディーとの結婚を勧められていて、正直な所かなり迷惑していた。

こんな話になるからビジネス以外では会いたくなかったのに。
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