彼の隣で乾杯を
きょろきょろと社長の背後に目をやると、そこにはセクシーなドレスに身を包み出るとこが出て引っ込むところが引っ込んだお色気満タンの若い女性にグラスを手渡し耳元に何かを囁いているエディーの秘書のイケメン中年ニコラスがいた。

ニコラス、お前もか。
紳士的なニコラスも女性を見たら口説かないと失礼とでもいう今や都市伝説のようなイタリア人男性の一人だったわけね。

「ニコラス!」
つい口調が厳しくなってしまったのは許して欲しい。だって、私、大ピンチなんだもの。

ニコラスがハッとしたようにこちらを見た。
そして、すぐに私の状況を理解したらしい。

「エディー、社長、あなた達はまたユイコに何か無理を言っているんですね」
とお色気満タン女性をその場に置き去りにして間に入ってきてくれた。


ニコラスの登場にエディーだけでなく社長と奥様も身体をびくりとさせた。

「ええーと、私たちは他のゲストに挨拶に行こうか」
「ええ、あなた。そうね、皆さんお待ちですし」
慌てたように社長が奥さまの手を取った。

ニコラスは影のアンドレテ社のかじ取り役であり、アンドレテ社の良心だ。

ニコラスは社長夫婦に対してもしっかり意見が言える有能な人で実は前社長の年の離れた腹違いの弟、つまり社長の叔父である。
現在は甥夫婦の息子、エディーの秘書という名の教育係をしている。

私はニコラスとエディーを通じて知り合ったのだけれど、今では名前で呼び合うほど親しくさせてもらっている。


ニコラスの介入で社長は「じゃあ、ユイコ、またゆっくり食事でもしよう。次はイタリアの自宅においで」
と言い残すと、ニコラスの視線から逃れるように妻を連れそそくさと会場の中心に向かって歩いて行った。

ありがたい。
この一家の横暴ともとれる暴挙を制御できる人物がいることがどれだけ重大か。
私の知る限りそんなことができるのはニコラスだけだ。

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