彼の隣で乾杯を

3年前、好きになった小林主任が既婚者だったことが分かった時私は荒れた。そんな時に側にいてくれたのが早希と高橋だった。
あの頃は高橋のことを気の合う同期だと思っていて恋愛感情はなかった。高橋にも彼女がいたし。だからあの時は結構ぶっちゃけてしまっていたんだ。

今更取り返しがつかないけど、過去の恋愛を知られている相手に恋するなんて私ってバカだ。

でも、あの時の私は心が壊れそうになっていた。
両親の離婚の原因になっていた不倫に人一倍嫌悪感を持っていた自分が当事者になっていたこと、信頼していた小林主任に騙されていたこと、知らなかったとはいえ自分の行動が小林主任の家族をを傷つける行為になっていたこと・・・

立ち直れたのは早希と高橋が根気強く私のそばにいてくれたからだ。

母のように早希は私の身の回りの世話を焼き私の部屋に泊まり込んでくれた。
兄のように高橋は私の部屋を訪れ私や早希と共にお酒を飲み、くだらない話をし、そして閉じこもろうとする私を外に連れ出してくれた。

結果、恋愛感情に左右されるような生活をやめ生涯自立していくために仕事の出来る女になろうと思った。男性とは一線を隔していこうと思った。
あの頃は。


「大丈夫なような大丈夫じゃないような?」そっぽを向いて返事をする。

「何だそれ」
高橋の不機嫌な声がして、ぐいっと顎を持ち上げられて強制的に顔を高橋の方に向けさせられた。

驚きで目が丸くなる。
「おい、由衣子。俺は大丈夫かって聞いたんだ。ちゃんと返事しろ。まだ未練があるのか?」

「ないよ!」
”未練”の言葉に激しく反応してしまう。

「ないよ、未練なんて。あるはずない。私が主任に感じてるのは未練じゃなくて後悔だもん」

今度は真っ直ぐ高橋の目を見た。

自分の忌み嫌う不倫をしようとした過去の行いに対する後悔。
既婚者だって気が付かなかった自分が悪い。

「・・・悪かった」

高橋の手は私の顎から外され頬に移動すると手の甲で軽く撫でてテーブルの上に戻っていった。

「由衣子が今あいつのことをどう思っているのかよくわからなくて」

私が首をかしげると、高橋は少し気まずそうに視線をそらして頬杖をついた。
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