彼の隣で乾杯を
「変わらないもの、ですか」
何だろう。あのころと変わらないもの。

「俺はあるんだ。あの時も今もずっとお前に惹かれている。お前のことが好きだ」

息が止まるんじゃないかと思った。身体の中の血液が一瞬で冷やされたような信じられない言葉に固まる。
思考も追いついていかない。

「なっ、今さら何を」

「お前のことが忘れられなかったと言ってる」

主任の表情には一片の曇りもなく、そのことに驚き動揺して目を丸くして硬直する私とは正反対。

「冗談はやめてください」

「聡いお前のことだ、冗談じゃないのはわかってるだろう」

私はテーブルに肘をついて額を覆った。

「聞きたくありません」

どうして今更。
そして今、私にそれを言う意味は何。

「昔の話だ・・・俺は大学卒業と同時に幼なじみと結婚した」

ガバッと顔を上げて話し出した主任の顔を睨みつけ拳を強く握る。
「やめて。聞きたくないって言ってるじゃない」

「待て、少しだから聞いてくれ」

主任は私に懇願した。
見たことのないような主任の悲し気な目に立ち上がりかけた私の力が抜けていく。

目を伏せて大きく息を吸った。

「早く話してください。なるべく手早く」

「わかった」主任は小さく頷いた。
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