彼の隣で乾杯を
二人で黙ってコーヒーを飲んでいる間にも何度も早希のスマホが光っている。

本当はスマホの電源など落としてしまいたいだろうに、地元で母親が入院している早希は病院から緊急連絡があると困るとの理由でスマホの電源を落とせないでいる。

スマホが光る度に着信の相手が病院ではないかと確認しなければいけないのだからかなり苦痛を伴う作業であることは間違いない。

毎回画面に表示される名前は同じものなのだろう、画面を見る度に早希はため息をついていた。

スマホの電源が落とされてないのをいいことにしつこく光る着信の合図。

「ね、何があったか知らないけど、一度出たら?じゃないと一晩中終わらないよ」
早希は泣きそうな目をして私を見ると「やだ」と小さく言った。

「このままでいいわけないでしょ」

しかめっ面で早希を見ると黙ってふいっと視線をそらされてしまう。

こんな早希を見るのは初めてでこっちが戸惑う。
そうしている間にもまた着信ライトが光りだした。

このしつこさも相当だ。

くいっと顎で示すも早希は「やだ」と拒否の姿勢を貫こうとするのでしびれを切らした私が早希のスマホを取り上げ、代わりに出ることにしたのだった。
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