彼の隣で乾杯を
幸せになれ・・・か。
今の私は幸せに見えないんだろうか。
恋人がいない、片思いってことは不幸せってこと?

「今、何が私の1番の幸せなのかはわかりません。ただ、好きな人がいる毎日は嫌いじゃないです」

私もドライマティーニのグラスを口に運んだ。
仕事だけをがむしゃらに頑張ってきた日々を否定することはできない。それが全てだったし自分の根幹だったし。
そこに色を付けてくれたのが早希と高橋だ。


「どんな形であってもお前が幸せならいい。俺はタイミングを間違えた男だ。由衣子は間違えるな。後悔しない恋をしろ」

主任の瞳が後悔の暗い色から穏やかな色に変わった。

「ごめんなさい」

「いや、いいんだ。今更だってことはわかってた。だけど言いたかったんだ。由衣子の気持ちはわかってたよ。だからもういい、お互い前を向こう」

前を向いて、前を向いて・・・か。
事情を知れば主任のことを恨む気持ちも薄れていく。
仕事の楽しさを教えてくれたのと同時に私を不倫の道に踏み込ませようとしたこの人のことをずっとずっと恨んでいた。

しかし、この人と出会わなければ仕事の楽しさも今の仕事のやり方も知ることはできなかっただろう。
離婚が成立した後だったらこの人と歩む将来もあったのだろうか。
ーーーもう考えても仕方がない話だ。


「もう少し飲んでいくよ」と言った主任を残して私ひとりBARを出た。


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