彼の隣で乾杯を
食後の紅茶をゆっくりと飲んでいると、スマートフォンの着信のバイブルに気が付いた。

この番号は日本の本社からだ。ただ、自分の所属する海外事業部ではない。即座に席を立ち、通話ができるテレフォンコーナーに移動した。

「お待たせしました。佐本です」

「あ、僕、営業の神田です。佐本さん、いま話をして大丈夫かい?」

電話の向こうから聞こえる声は軽い話し方だけど中年男性と思われる。
え、あれ?営業の神田って?
「あの、もしかして神田部長ですか?」

「そうだよー。佐本さん、忙しいとこごめんねー」

た、タヌキ部長?
「お、お疲れ様です。どうかなさいましたか?」

まさかの相手にスマホを持つ手に力が入ってしまう。

「ああ、あのねー、こっちの都合で悪いんだけど、うちのスタッフをそっちにやるから明日からしばらく相手をしてもらえる?」

そっちって、イタリアにってこと??

「あの、私、明日は大使館のレセプションで。その後、明後日の便で帰国する予定なんですが」

「知ってるよ。佐本さんには明日のレセプションでうちのスタッフを顔つなぎに連れて歩いて欲しんだ。君の人脈を利用させてもらって悪いんだけど。それと、その後佐本さんの帰国はちょっと延期させてもらってるから。これ、副社長命令だからね。よろしく頼んだよー」
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