彼の隣で乾杯を



大使館に着き、巨大な車を降りたところで不意にエディーが振り返り、不思議そうに私の地味な色合いのパンツスーツを眺めて言った。
「ユイコは何を着てもすてきだけど、どうして今日は和服やドレスじゃないんだい?」

「今日はあくまでもビジネスのために行くのよ。お着物は日本大使夫人やそのお嬢さま、他の奥様たちが着られるだろうし、ドレスを着て行ったらここでいい出会いを求めているかもしれないお嬢さまたちの邪魔になるし、私のビジネスのプラスになるとは思えないでしょう?」
私は笑顔で返した。

でも、私のこの地味に見えるスーツはイタリアの上質な生地で作られたものだし、アクセサリーも靴も全てイタリア製だ。
そんな事エディーはとっくに気が付いているはずなんだけど。

「ユイコらしいね。そのスーツ姿も素敵だけど」でもドレスアップしたところが見たかったとエディーは苦笑した。

「ありがとう」そうお礼を言って「早速、お仕事を開始するわね」と私は林さんの横に並んだ。

「送って下さってありがとう、エディー、ニコラス」

「どういたしまして。プライベートもビジネスも相談にのるよ、いつでも連絡して」

仕事モードになった私にハグと頬に軽いキスをしてあっさりとエディーたちは離れて行った。
その後ろ姿を林さんが見送る。

「あのエディージオ氏を手玉にとっているなんて佐本さんって本当にすごいね」
林さんが興味深げに声を出した。

手玉にとるとか、どんな言われ方なんだかな。
それじゃ私が相当な悪女みたいじゃないか。

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