彼の隣で乾杯を
エディーがこの場にいないからこそこの手は使える。
もしいたらこの手は使えなかった。それこそパーティーの後、言質は取ったとばかりに延々と彼の趣味のボードゲームに付き合わされてしまうだろうから。

エディーがここ数年はまっているのが囲碁と将棋。
自分と同じレベルで対戦する相手を見つけることがなかなか難しいらしく、彼は私に執着しているのだ。

徹夜で麻雀をする徹マンは話には聞いたことがあるけれど、深夜までの碁とか・・・ほんときつかったんですけど。
ニコラスとニコラスの奥さまがコーヒーを何度も淹れてくれたけれど、何度うとうとしそうになったことか。

そんな長時間の囲碁に付き合ったのには訳がある。
あの時は彼の碁に付き合う代わりに彼が個人的に所有するプライベートジェットに同乗させてもらっていたからだ。

出張していたヨーロッパの空港でストライキのため急に欠航が決まった飛行機のチケットを手に呆然としていた私にたまたま居合わせたというエディーが声をかけてくれたのだった。

よく考えてみれば、たまたま居合わせるはずはないのだけど。
そもそもプライベートジェットを使う人と一般客が同じ空港内とはいえ同じターミナルにいるわけがない。
作為的な何かを感じるけれど、深読みをするのは面倒だからやめた私を責めないで欲しい。
あの時は次の契約の予定があってとにかく早く日本に帰りたかったのだ。

長時間の碁に付き合わされたけれど、最短時間で無事に日本に帰国できたことは感謝しかない。

あのまま空港でストライキが終わるのを待っていたら帰国は1週間後になっていたし、他の空港に移動して帰国をするにも直行便の手配は難しく、経由を重ねることになり日本に戻るのに48時間近くかかってしまうはずだったのだから。

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