彼の隣で乾杯を


「佐本さんが取引先の男性陣だけでなくそのご夫人たちにも気に入られている理由がわかりましたよ」

たっぷりとあいさつ回りをした後、会場の片隅でペリエ片手に休憩をとっていると林さんが真面目な顔で話しかけてきた。

「気に入られているでしょうか?」
「ええ。かなり」

私は周囲にかなり気を遣っているけれど、気に入られているという感覚はない。
パートナーを連れている男性の前では必ず女性の側に立ち必ず女性を褒める。同伴している女性を話の輪に加える。
ビジネスの話にパートナーの女性が入って来られるはずがない。どうしてもしなければならないビジネスの話はするけれど、なるべく最低限にする。そのあたりの加減が悩ましいところだけど。

「国内のパーティーに出ても、佐本さんが来ていないのかと聞かれることがあります。男性だけでなく、そのパートナーの女性からも」

目をぱちくりさせてしまった。そうなの?

「私、女性には嫌われるタイプですけど」

「そんなのは仕事のできない女性の妬みや僻みでしょう、あ、いや寝言かな」

あらら、この人結構な毒舌だよ。
はははと愛想笑いでごまかすと「冗談じゃないです」と真面目に返された。

「女性を連れている場合こちらがどう対応するかで信頼関係問題に発展することもありますからね」

それはそうですが。

「あなたは魅力的な女性ですから、男性の視線を浴びやすい。それはそのパートナーの女性にとっては敵になりやすい。うちの副社長のような男の場合は逆にパートナーの女性が副社長ばかり気にしてしまいお相手の男性が不愉快になるっといった具合です」

< 84 / 230 >

この作品をシェア

pagetop