彼の隣で乾杯を
湖の遊歩道は本当にただの散歩道で、ゆっくりと湖と山と森の景色を楽しみながらぶらぶらと散歩することができる。
団体旅行の姿はほとんどなく、子ども連れもわずかで騒がしいグループも見かけない。ここはずいぶんと落ち着いた大人の隠れ家のような観光地のようだ。
私たちは肩が触れない程度の微妙な距離を保って歩いている。
この休暇を私がどれだけ楽しんでいるか、この同期の男は知らないだろう。
ローマから飛行機に乗った時に私は仕事のスイッチを切っていた。
というのも、昨夜眠りにつく直前に神田部長からメールをもらったのだ。
「これから帰国まで佐本さんは特別休暇だから、思い切り楽しく遊んでおいで。旅費は副社長のポケットマネーだし何も気にしなくていいよ。彼の個人資産結構あるから」
メールを読んだ時には何だこれと思わず脱力しかけたけれど、副社長のポケットマネーと聞いて俄然やる気になった私。
迷惑料として使ってやる!と気持ちを新たに楽しむことにしたのだ。
それに、高橋は確実に私よりイタリアに詳しい。仕事に関しても私の助けなどいらないはずだ。
ここに2泊して帰国することになっている。
好きな相手と過ごすなんて最高だ。