ストロベリームーン

「これって人気のモデルですよね。いくらでも中古やネットオークションで手に入りそう」

「わたしもそれは考えたけど違うと思う」と璃々子。

「理由は?」

「リョウはドケチだから同じものを2度は買わないと思う。たとえ2度目が安く手に入るとしても」

「なるほど」

 世那と小春が同時にうなずく。

「じゃあ、その人が璃々子さんのところに盗みに入ったってこと?」

 世那はそう言って小春に顔を寄せて雑誌を覗き込む。

 2人の頬が触れ合う。

「ないと思う、鍵持ってないし」

 璃々子は首を横に振る。

「誰かからたまたま同じものをプレゼントされたとか」

 世那は人差し指を立てる。

「このリョウに300万の時計を?そんな女いる?」

 璃々子はあからさまに顔をしかめる。

「いや、男ってことも」

 世那はそう言ったはいいものの自信なさげに頭を垂れる。

「とりあえず本人に聞いてみたらどうですか?」

 小春の意見に世那と璃々子はうなずく。

「そうね、そうしてみる。とりあえず今日このあと仕事だから今は帰る」

 璃々子はそそくさと身支度を始めた。

「どうだったかすぐに教えてくださいね」

 世那の言葉に手を振り璃々子は店を出た。

 少し歩いてスマホを取り出した。

 はやる気持ちを抑えることができなかった。

 リョウの連絡先は全部消していたが、SNS ですぐに見つけることができた。

『久しぶり。ちょっと聞きたいことがあるから会えないかな?』

 リョウなんかに会いたくない。

 電話で済ませてもよかったが、なんとなくちゃんと会って訊いた方がいいような気がした。

 嘘をつかれた時、電話だと分かりにくい。

 リョウは返事をしてくるだろうか?

 無視されることも考えられる。

 意外にもリョウからすぐに返事は来た。

『こっちも用があるASAP』

ASAPとはAs soon as possibleの略で早急にという意味だ。

 英語混じりなのは相変わらずだ。 

 その後にリョウは勝手に自分で決めた日時と場所を送って来る。

 ちょうど璃々子も空いていたからいいが、こういうところも相変わらずだ。

 にしてもリョウの用とはなんだろうか。



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