ストロベリームーン

初めての夜


 璃々子が店を出て行ってしまうと世那は小春と2人きりになった。

 孝哉はまだ帰ってこない。

「璃々子さんってひまわりみたいな人ね」

「ひまわり?」

「うん、彼女がいるとぱっと周りが明るくなる」

「わたしはどちらかと言うと、お騒がせな小さい台風で周りを巻き込むって感じだと思うけど」

 世那は璃々子が出て行った入り口の方を見る。

「あ、その表現も当たってるかも」

 小春は喉でくくっと笑った。

「それより、カフェドベルジクは?」

 世那の手元に冷蔵庫から出した卵が汗をかいている。

 璃々子との会話に夢中になってすっかり忘れていた。

 やっぱり璃々子は小さい台風だ。

 小春は世那の作った猫祭りコーヒーを一口飲むと「美味しい」と微笑んだ。

「家ですごい練習したんだ」

 小春は人差し指で口元を拭った。

「今週末またわたしの家に遊びにおいでよ。一緒に夕飯作って食べない?それで泊まっていきなよ」

 世那は爪が短く切りそろえられた小春の人差し指を見ながらうなずいた。

「ねぇ小春」

 ドアが開いて孝哉が戻って来た。

「あ、いらっしゃい」

 孝哉は小春の手元に猫祭りコーヒーを発見する。

「お!もう世那ちゃんは1人前だな。じゃあ次はドライカレー作りだな」

 満足気にうなずくと手に持っていた買い物袋を世那に手渡した。

 中には玉ねぎや挽肉やが入っていた。

 世那はしゃがんで冷蔵庫にそれらをしまう。

 ピンク色の挽肉をそっとラップの上から押してみた。

 女同士のあれって、本当のところどうするんだろう。

 世那は挽肉を押した自分の指の爪が伸びていることに気づく。

 わたしも爪ちゃんと切らないと。





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