ストロベリームーン
「でもね、離婚した後母は1人で沖縄に移住しちゃって、小さな沖縄料理屋なんかやってんの。沖縄料理なんて家では1度も作ったことなかったのに。なんか沖縄で暮らすのがずっと夢だったんだって。でね、わたしに言うわけ、小春、人生は自分の好きなように生きなさい。それが何よりも1番大切なことなのよって。そしてこの話には続きがあって、なんと父が母を追って沖縄に移住してまた一緒に暮らしてるの。沖縄の方がインスピレーションが研ぎ澄まされるとかなんとか言って。父は前から馬鹿だけど母も訳わかんない。で、わたしはこの2人の娘なんだと思うと、なんだか全力で好きなことをやっていないのって家族でわたしだけだと気づいたんだよね」
「この前わたしが会った弟さんはなにしてるの?」
「ああ、あれ?あれはねシェフやってる。子どもの頃から食い意地が張っててさ」
世那に比べると小春はずっと自由に生きているように見えていたが、小春は小春でいろいろ葛藤があったのだ。
「ねぇ、小春って家族にはカミングアウトしてるの?」
「特にはしてない。してないけど知ってる。父なんか普通にわたしのタイプの女の子のこととか聞いてくるし」
さすが小春の家族というか、世那の両親とはレベルが違う。
ふとあることが頭に浮かんで小春に聞いてみる。
「ねぇ、小春の家族も裸族なの?」
小春は新しい春巻きの皮をお湯から取り出そうとして破いた。
「裸族?」
「家では裸で過ごすっていう」
小春は可笑しそうに笑う。
「なに、世那も裸になりたいの?」
「いや、そうじゃなくて」
小春は世那にキスをした。
長いキスだった。
今まで何度か小春とキスはしたがこんなに長いキスは初めてだった。
小春の舌が世那の中を探るように這い回る。
頭が真っ白になってくらくらしてくる。
意識がぼぅっとしながらも、ここでこんなキスは早いのではないかと思った。