ストロベリームーン
50万の犯人
リョウが指定してきた場所はリョウの会社近くのスタバだった。
璃々子はオーダーしたディカフェを持って2階に上がる。
スタバはどこのスタバもいつでも混んでいるが、ここも同じで、それでも隅に2人掛けの席が空いているのを見つけてそこを陣取る。
客の多くがパソコンを広げ熱心に画面を見ていたり、流れるようにタイピングしている。
そんな客たちを眺めながら璃々子はコーヒーを啜る。
タバコが吸えないと思うと急に口さみしくなり、何か甘いものでも買ってこようかと立ち上がった時、階段を上ってくるリョウと目が合った。
「ヘイ、璃々子」
リョウの声はでかい。
何人かの客が顔を上げてリョウの方を見た。
リョウのトレイにはコーヒーカップとシナモンロールが乗っている。
リョウは甘党で特にこのシナモンロールが好きだった。
そしてトレイを持つその左腕にはあの腕時計がはめられていた。
もっと腕時計を見たいのを今は我慢して、リョウに一応社交辞令としての微笑みを浮かべる。
リョウはどかりと椅子に腰を下ろすと、短い足を組んだ。
久しぶりに見るリョウは相変わらずわらじだった。
「あのさ、おまえんとこで働いている女いるだろ、茨城から出てきたっていう奴」
リョウは席に着くなり言った。
璃々子はこくりとうなずく。
「なんでリョウが志保ちゃんのこと知ってんの?」
志保が璃々子のところで働き出したのは璃々子がリョウと別れた後のはずだ。
「俺、あれポリスに突き出すから」
「え?」
「あいつ俺の財布からキャッシュを盗みやがった。それも1度や2度じゃない。本人は絶対に自分はやってないと言い張るが、アイノー、俺には分かる。あいつだ、あいつしかいない」
璃々子はリョウの話についていけず頭が混乱する。
「ちょっと待って、待って、待って。もっとちゃんと説明してよ」