ストロベリームーン
リョウは咳払いをするとシナモンロールに食らいつきコーヒーをそろりと飲んだ。
話はこうだった。
リョウが六本木の外国人が集まるバーでナンパした女の子がいた。
それが志保ちゃんだった。
その日のうちに2人はホテルに行き、以後そう言う関係になっているのだそうだ。
「女って分かんねぇよな。あんな田舎から出てきたばかりで、うぶですって顔しておいてさ、オーマイガーだよ」
リョウのことだ、他のいかにも都会的でバリバリな女には物怖じし、地味でどこか野暮ったい志保ちゃんに声をかけたのだろう。
それにしても、
「うちで働いている子だっていつ分かったの?面倒くさいから止めてよね、そういうの」
「ノーノー、違うよ、いやあん時にさ」
リョウは口ごもる。
「とにかく話の流れでブラジリアンワックスに興味あるっていうから璃々子の話をしたんだよ。そしたらおまえんとこで働き出したみたいだからさ」
そうだったのか。
志保ちゃんはそんなこと一言も言わなかった。
リョウと璃々子が付き合っていたことを知っていて、そして自分がリョウと付き合っているのをずっと璃々子に黙っていたのだ。
東京にまだまだ馴染んでいないただの大人しい女の子だと思っていた。
信用ならない。
そんな言葉が璃々子の頭に浮かんだ。
「おまえんとこ大丈夫か?」
あっという間にシナモンロールを食べ終わったリョウは指先を舐める。
「なにが?」
「おまえんとこなんか盗まれたりしてないか?店の売上金とかごまかされたり」
「ああっ!」
璃々子は大声を上げる。リョウは周りを気にしながら、「声でけーよ。なんだよ」と自分のことは棚に上げる。
「50万なくなった」
「アイシー、やっぱりな」
にしても50万か、でかいな、とリョウは独り言のように呟いた。
「でも志保ちゃんが盗んだなんて信じられない」