ストロベリームーン
「で、ポリスはなんて言ったんだ?」
「へ?」
「だから警察はだよ」
璃々子は手元の紙ナフキンを細く千切る。
「届け出してない」
警察には行ったが被害届は出していない。
出すと蓮が疑われると思ったからだ。
「馬鹿かおまえは」
璃々子の手にリョウの唾が飛んで、璃々子は嫌そうに千切った紙ナフキンでぬぐった。
「とにかく、璃々子の件もあれば確実だな。あいつは捕まる。She is arrested だ。ざまぁ見ろ」
リョウは今すぐにでも警察に行きたそうだったが、この後大事な打ち合わせがあると言う。
「おまえは今から行け」
リョウはそう璃々子に命令すると席を立った。
自分の話だけしてその場を立ち去ろうとするリョウを黙って見送りそうになった璃々子ははたと自分の用件を思い出す。
「ちょ、ちょっと待って」
急いでいるのか駆けるように階段を降りるリョウに追いついたのはスタバを出てからだった。
「ちょっとリョウ、わたしも話があるんだけど」
最近運動不足のせいかちょっと走っただけで息が上がる。
呼び止められたリョウは体ごと振り返った。
「その腕時計」
璃々子はリョウの左腕を指差す。
「それ、どうしたの?」
璃々子はリョウが、しまった、と言う顔をしたのを見逃さなかった。
「ど、どうって俺の腕時計だよ。で、おまえの話ってなんだよ」
明らかに声が動揺している。
璃々子は呼吸を落ち着かせると意識して凄みの利いた声を出した。
「わたしの話はその腕時計についてよ」
リョウの目が泳ぐ。
「その腕時計ってわたしのところに忘れて行ったやつよね」
璃々子には自信があった。
リョウの不自然な態度がそれを確実なものとしていた。
リョウは黙っている。
「ポリスに行くのはリョウもなんじゃない」