ストロベリームーン
璃々子は両手を腰に当て、右肩を少し前に出し凄んでみせた。
目元に力を入れる。
そうすると璃々子の目は二重から一重になる。
「わ、分かったよ」
リョウはバイバイするように両手を振った。
「何が分かったよ」
「違うんだよ、これは頼んで取ってきてもらったんだよ。別にもともと俺のなんだからいいだろ」
リョウは無意識にか腕時計をはめている手をポケットに突っ込んだ。
「頼んで取ってきてもらったぁ?一体誰に」
璃々子が1歩前に出ると、リョウは1歩後ろに下がる。
「おまえの入れ込んでるホストにだよ」
璃々子はリョウが誰のことを言っているのかすぐには分からなかった。
「ホスト?」
「あいつだよ、1度新宿でばったり会ったじゃないか、つまりさ」
リョウが道の端に移動するので璃々子も引っ付いて行く。
リョウには今年の春大学に進学するために田舎から上京した親戚の女の子がいた。
その子が歌舞伎町のホストクラブに行ってみたいと言うので、連れて行ったのが偶然蓮のバイトしているメンキャバだった。
入れ替わり立ち替わりするホストの中に蓮はいた。
蓮もリョウのことを覚えていて、2人は険悪なムードだったが、親戚の女の子がいたく蓮を気に入ってしまった。
彼女は蓮に会うために店に通い始めた。
メンキャバと言えども女子大生が通い続けるには無理がある。
ある日蓮からリョウに電話がかかってきた。
そんなに額は多くはなかったが彼女の未払い分の請求だった。
蓮はメンキャバを辞めるつもりなのでそれまでに払って欲しいと言ってきた。
リョウは支払いの件に渋々承諾し、メンキャバを辞めるんだったらこのまま親戚の子と付き合ったらどうだと蓮に振ってみたそうだ。
「俺の親戚のその子、ヴェリースィートなんだぜ」
リョウは頼んでもいないのにスマホを璃々子の目の前に突きつけた。