ストロベリームーン
もともと常識外れな璃々子はどうでもいい、孝哉の意見が聞きたい。
「そんなことしないよ。だって世那ちゃんが好きなんでしょ、それでいいじゃないか。そういうのを極端に毛嫌いする人もいるけど、少なくとも僕と璃々子さんは違う」
「だよね、だよね」
横から璃々子が口を挟む。
「そっかぁ、相手はあの人だったんだ。だから隼人はあんなこと言ってたんだ」
「あんなことって?」
世那と璃々子が同時に訊ねる。
隼人はときどき世那のことを孝哉に相談していたらしい。
世那と付き合い出した当初はただ浮かれているだけだったが、そのうち『世那ちゃんには他に誰か好きな人がいるような気がする』とか『世那ちゃんは自分のことを本当は好きじゃないんじゃないかと思う』などというようなことを言っていたらしいのだ。
「本当に隼人くんがそんなこと言ってたんですか?」
別れ話をしたファミレスで最後驚くほど冷たかった隼人。
『俺にも他いるからさ』と吐き捨てるように言った隼人。
隼人の方こそ世那を本当に好きだったのだろうか?
「ああ、真剣な顔してね」
「でも隼人くん、わたし以外にも他にいたみたいですよ」
「うっそぉ、サイテー!」
すぐに璃々子が反応する。
「それはどうかな。本当か嘘か分からないし、たとえ本当だとしても、もしかしたら隼人はずっと寂しかったのかも知れないよ。世那ちゃんの心が自分にないことを知ってたからね」
隼人に他に誰かいたのは本当だと思う。
いつだったか、そう孝哉の死んだ恋人のことで隼人に電話したとき、あのとき後ろで水音に混じって女の子の声がしたのだ。
今思えばあの時隼人はホテルにいたのではないかと思う。
証拠が何かあるわけではなく、それは勘でしかないが。
「孝哉っちは男だから隼人くんの肩を持つけど、理由はなんであれ両天秤なんてサイテー」