ストロベリームーン
そういうところの方がきっとマイノリティに優しい。
自由で新しい社風の会社でやりがいのある仕事をしながら、小春と一緒に生きていく。
ゲイパレードに一緒に参加しちゃったりするかも知れない。
老後は同じような仲間たちと近くに住んだりして、一緒に食事したり、それも楽しそうだ。
1度だけ行った2丁目のバーの女の子たちはみんな優しかった。
いいじゃないか、それで。
結婚とか子どもとか、それ自体に未練はない。
ただ小春を好きになって、本当に好きな人とする結婚や好きな人との間にできる子どもという幸福の大きさに初めて気づいただけだ。
後悔はない。
人生はそんなものだ。
全ては手に入らない。
選択しながら生きていくのが人生なのだ。
璃々子の言う通り、幸せとは探すものではなく今あるものの中から見つけるものなのだ。
世那は自分で自分にそう言い聞かせ、うんうんとうなずく。
「……だよね、世那ちゃん」
「え?」
すっかり自分の考え事に夢中になっていた世那は横に孝哉がいることを忘れてしまっていた。
孝哉がシンクで手を洗っている。
「世那ちゃん見たよね」
孝哉は流れる水の下で手を擦り合わせる。
「世那ちゃん、この前うちに来たとき、僕の部屋見たでしょ」
「そりゃ行ったので見ましたが」
「そうじゃなくて、僕の寝室をさ」
世那は猫祭りコーヒーの入ったカップを両手で握りしめた。
どうしよう、嘘をつくかつくまいか。
「はい」
決心する前に口が滑ってしまった。
「驚いた?驚くよね」
「いえ、そこまでは」
孝哉の寝室はやはり何もなかった。
ベッドと壁に貼られたおびただしい数の写真以外は。写真に写っているのは全て同じ女の子だった。
「なんかよくある変質者の部屋みたいだよね」
「そ、そんなことないですよ。あれって亡くなった恋人ですよね」