ストロベリームーン
1人は小春の弟で、ベッドを運び出しているがたいのいい2人の男は世那の知らない男たちだった。
と、思ったら違った。
「ちょっとぉ、ちゃんとそっち持ってよぉ、絶対わたしの方が重いんだからぁ」
「なに言ってんのよぉ、あんたこそ楽してるでしょ」
女装をしてないパート1とパート2だった。
こうしてみると2人とも立派な男に見えるではないかと感心していると、パート1と世那の目が合う。
「ちょっとぉ、あんたぼやぼやしてないでこっち手伝いなさいよ」
世那は慌ててパート1の横でベッドを支える。
パート2がそのことについて文句を言っているがパート1は無視だ。
「あんた、今度また小春を泣かしたらわたしがタダじゃおかないからね。こっちの世界にくるんだったら腹決めて来なよ」
最後の「腹決めて来なよ」のところだけ男の声だった。
世那は身の引き締まった思いでうなずいた。
「な〜んてね。こっちの世界へようこそぉ。パラダイスよん」
パート1が世那に握手を求めてきたのでそれに応じると、ベッドの反対側でパート2が雄叫びをあげた。
小春と連絡がつかなかったのは、小春が荷造りと一緒にスマホをどこかにしまってしまったからだった。
電源がオフになっているのかバッテリーの残量がなくなってしまったのか、探せないという。
小春もこんなドジをするんだなと、ちょっと意外だった。
小春の荷物はそれほど多くはなく、昼の2時には全ての荷物は笹塚の新居に運び込まれた。
前の家は一軒家だったが今回の家は古い5階建のビルの最上階だった。
エレベーターはあったが、乗っていていつ止まるかと不安になるような古いものだった。
新しい小春の家は衝撃的だった。
8畳ほどの居住スペースに、その何倍もありそうな屋上部分。
ほとんど屋上を借りたと言ってもいい。
屋上といってもそこから見える景色はまあまあで、でも空だけは頭上にいっぱいに広がっていた。