ストロベリームーン
「世那ちゃん、本当にこんなのでいいの?性格キッツイよ。子どもの頃から俺ら弟は奴隷だからね」
パート2が奴隷という言葉に反応して喜ぶ。
「わたしは1人っ子なんで兄弟いるの羨ましい」
「奴隷でも?」
「馬鹿、わたしは女の子には優しいの」
小春が源の頭を小突く。
その小春の手を源が跳ね除け、小春がまた源のその手を追いかける。
笑いながら2人は手の追いかけっこをする。
パート1はそれを見てわざとらしいため息をつく。
「微笑ましい兄弟愛ねぇ」
「なんだかんだ姉1人、弟1人で仲良いですよね」
世那も同調して微笑んだ。
「あら、あんた知らないの?小春には」
その時強風が吹いた。
プラスチックの皿や紙ナフキンやらが吹き飛ばされ、サングリアのコップが倒れて転がった。
真っ先に拾いに走ったのは源だった。
それから何度か強風に襲われた一同は仕方なく室内に移動した。
「風に負けないどっしりとした食器が必要ね」
小春は窓から屋上を眺める。
何もなくなった屋上に溢れたサングリアが赤い染みを作っていた。
残りのランチをささっと済ませると、小春はあとは自分1人でできるからと皆に申し出た。
世那が自分はまだ残って手伝うと言うと小春もそれを拒むことはせず、残りの3人は気を利かせたのか、すんなりと帰って行った。
小春は生活に必要な最小限のものを数個のダンボールにまとめていた。
世那はその中にコーヒーを入れる道具を発見した。
「ねえ、猫祭りコーヒー作ってあげる」
世那は近くのコンビニに材料を買いに走った。
1人で乗るエレベーターは不安が倍増する。
落ち着かなくてきょろきょろしていると、『定期検査報告済証』というのが貼ってあって、日付を見ると1年くらい前だった。
1軒目のコンビニでハーゲンダッツが売っていなかったので、もう一軒回る。