ストロベリームーン
「ハーゲンダッツが売ってないコンビニなんてコンビニじゃないんですけど」
世那はぼやきながら帰り道を急ぐ。
帰りはエレベーターではなく階段を使った。
さすがに5階はキツイ。
息を切らしながら小春の部屋に戻ると小春がソファーを屋上に引きずり出しているところだった。
「遅かったね」
世那は買い物袋を床に置くと急いで小春を手伝う。
「このソファーどうすんの?」
「今日は天気もいいし外に置くの」
「明日また雨だよ」
「そう?じゃ明日は部屋にしまう」
「面倒じゃない?」
「現代人はせっかち過ぎる。なんでも時短だとか要領良くとか、無駄な事って考え方を変えれば無駄どころか宝だったりする」
「今のこの作業も?」
小春はソファーの向こう側で唇をチュッと鳴らした。
投げキッスのつもりらしい。
と言うか、それでごまかされた。
世那が猫祭りコーヒーを作っている間に小春はコーヒーカップを2つ出してきた。
屋上の真ん中にぽつんと置かれたソファーに座って猫祭りコーヒーを飲む。
「ここには緑をたくさん置こうと思うんだ」
「あ、いいねそれ。家庭菜園とかもできるんじゃない?」
育てるならプチトマトは絶対だとか、ハーブ系も便利だねとか、季節ごとに収穫できるようにしようなどと話し合う。
「部屋にはまたタイルを貼るよ」
「わ〜、わたしも手伝いたい。どんな風にするの?」
「どんなのがいいと思う?」
最初はいろいろ大変そうだなと思った世那だったがこうして小春と話しているとなんだかワクワクしてくる。
青かった空がだんだんと染まり始めた。
「もしかしてここから夕日が見れるとか」
「夕日だけじゃなくて朝日も見れると思うよ。わたしが部屋を内見しにきた時、夕日は綺麗に見えたけど」