ストロベリームーン


 世那は目を細めて落ちていく太陽を見つめる。

 夕日をゆっくり眺めるなんて久しぶりだ。

 別にそんなに毎日忙しい訳ではないが、日々の生活の中でゆっくり空を眺めることなどない。

 夕日を見るのは旅行に行った時や海に行った時などで、夕日鑑賞はもはやイベント事になっていた。

 地平線や水平線に沈む完璧な日の入りではなく、建物の間に見えなくなっていく夕日だったがそれでも十分綺麗で世那は感動した。

 小春はこれから雨の日以外、毎日この光景が見ることができるのだ。

「小春がここに決めたのってこの夕日が見れるから?」

 世那は太陽が沈んで行ったところをまだじっと見つめている。

 絶対に太陽がまた顔を出すなんてことないのに、それを待っているかのように目が離せない。

「DIY可能な渋谷区の物件ってここしかなかったんだよね。で、見にきてみたら大当たりみたいな」

「なんで渋谷区?」

 わずかに色づいていた空はすっかり暗くなり、小春の顔の輪郭がぼやけて見える。

「渋谷区はパートナーシップ証明が申請できるから。世田谷区もできるけど、条例として定めてるのはまだ渋谷区だけなんだ」

 パートナーシップ証明。

 世那がネットでLGBT について検索していた時に何度か見た言葉だった。

 男女間の実際の結婚とは違うが、それに近い法律上の権利を同姓間のカップルに認めるというものだ。

「小春……、誰かと結婚するの?」

 小春は吹き出した。

「やっぱり、まだ気が早いかな?20歳以上じゃないといけないからまだ2年も先だもんね、それに世那も渋谷区に引っ越して来ないといけないし、それともちょっと狭いけど一緒に住む?」

 世那は気づいた。

 今、自分はプロポーズされているのだ。

 こんな世那でも普通の女の子のようにプロポーズされるところを何度か想像したことはある。

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