ストロベリームーン
ベタにひざまずかれ指輪を差し出されてだったり、それとは真逆に狭くて汚い店でラーメンをすすっている時に、「結婚しよっか、ズズッ」みたいな。
でもそれらのすべて、顔こそ霧がかかったように霞んで見えなかったが、世那に結婚しようと言うその声は太くて低い男の声だった。
「今どき20歳で結婚って早くない?」
なぜか出てきた返事はそんな言葉だった。
「じゃ、もっと遅くでもいいけど。子どもを産んで育てることを考えて逆算しないとね」
「ど、どうやって?てか無理でしょ」
「生物学的には無理だけど、いろいろ方法はあるよ。どっちかが精子バンクから精子もらって妊娠するとか、あと養子って手もあるし。そんなに自分の子どもにこだわる必要もないかもじゃない」
さすがの世那も小春のこのぶっ飛びについていけない。
確かにパートナーシップはもらえる。
でもまだ日本では同姓カップルが子どもを持つには厳しい状態だ。
それを小春に告げると小春はきっぱりと言った。
「だったらわたし達がその1番最初になればいい」
小春の目は力強くもあったがとても優しくもあった。
世那の体から力が抜けていく。
「それとも世那はわたしとじゃ嫌かな?」
「嫌じゃないけど」
「けど?」
言おうと思えばいろんな事が言えた。
が、それらはどれも生真面目で退屈で保守的なネガティブな言葉ばかりで、面白くないし全然輝いてなかった。
今までの世那だった。
小春と会う前までの世那だった。
「する」
世那は拳を上げて立ち上がった。
「わたし小春と結婚する!」
小春も立ち上がるとぎゅっと世那を抱きしめた。
「良かった、これでも緊張してたんだ」
「でもさ、わたし達付き合いだして間もないのに、本当に大丈夫かな?」
「……」
「小春?」