ストロベリームーン
小春がどこかをじっと見ている。
世那も同じ方を見ると、そこにはさっき沈んだはずの太陽がいた。
「あれ!太陽!?」
世那は目を疑う。
「違う、月だよ」
小春が囁くように言った。
大きな赤い月が空の低いところに浮かんでいる。
なんか不気味だ。
「月?あんなに赤い」
「ストロベリームーン。夏至に近いこの時期だけに見られるって言う。ねぇ世那、わたし達絶対大丈夫だよ」
小春は嬉しそうだ。
「大丈夫ってなんで?」
「このストロベリームーンを見ると好きな人と永遠に結ばれるっていう言い伝えがあるんだって。わたし達一緒にこれを見てるんだもん。最強だよ」
どちらかと言うと不気味な月にそんなロマンティックな言い伝えがあるのか。
「きれいだよね」
横で小春がため息をついた。
本当に小春と自分は対照的だ。
世那には不気味に見える月が小春には美しく映っているのだと思うと、世那はおかしくなった。
小春と出会ったことで世那は少しずつ変わっていくだろうが、それでも生まれ持った性分というものはそんなに変わるものではない。
そしてきっと無理に変わる必要なないのかも知れない。
変わらない世那でも小春は同じように好きになってくれるだろう。
だって実際にそうだったのだから。
小春が太陽なら世那は月。
白と黒の陰陽太極図のように2人は真逆で、でも絡まりあって1つになる。
だから違う2人でも一緒にいるとこんなに満ち足りた幸せな気分になる。
「ずっと一緒にいようね小春」
「うん」
小春は世那の手を握った。
世那はその手を強く握り返した。