ストロベリームーン
「ひどいよぉ蓮くん」
涙が溢れてきた。
ハンドバックをまさぐるがハンカチもポケットティッシュも入っていない。
ハンカチ売り場で目についたハンカチを手に取るとそれで目元を拭いた。
「ちょっとお客さま」
すぐに店員に声をかけられる。
「なによ、買うからいいでしょ」
璃々子が睨むと店員は、あっ、と言う顔をした。
「この前の」
璃々子が心の中で『この役立たずが』と罵った白髪混じりの店員だった。
蓮とは全然会えないのに、会わなくていい人にはまた会う。
彼にはなんの罪もないのだが、璃々子はイラッとした。
「この前のなんですか」
「いましたよ、お客さんの探しているバイト、神崎蓮」
「うそっ」
璃々子は店員に飛びついた。
男は驚いて仰け反る。
「き、今日初めてすれ違いのシフトだったんですけど、な、なんか今日で最後みたいなこと言ってました」
「なぁにぃ〜!最後?蓮くんはいつまでここにいたの?」
「さ、さっきです。ついさっき。30分くらい前」
璃々子は店員を突き飛ばすと、店の外に走り出た。
たりらりらりん、らりらんらん。
辺りを見回すが30分前では蓮がこの近くにいるはずもなかった。
とりあえず駅の方に行ってみよう。
璃々子のスマホが鳴った。
電話なんか取っている場合ではない。
璃々子が無視するとやがてスマホは黙った。
が、またすぐに鳴る。
仕方なく璃々子はハンドバックからスマホを取り出す。
知らない番号からだった。
『あのここに電話したらやらせてくれるって本当ですか?』
「……」
『お姉さんって美人?胸大きい?』
「……」
『なんで何も言わないの?もしかして怒ってる?』
「……」
『璃々子?』
「蓮!」
璃々子は叫んだ。
電話の向こうから聞こえてくるのは逢いたくて逢いたくて仕方ない蓮の声だった。