ストロベリームーン

「蓮どこにいるの?なんでいきなりいなくなっちゃったの?どうしてずっと連絡くれなかったの?ねぇ今どこ?なにしてるの?」

 璃々子は一気にまくし立てる。

 まだまだ言いたいことはあったが蓮の声がそれを遮る。

 静かな低い声だった。

『璃々子の番号を消してる』

「わたしの番号?」

『うん、この壁の璃々子の電話番号。油性ペンで書いてるからなかなか消えないんだよな』

 そう言うと蓮は黙った。

 耳を澄ませると壁を擦っているような音が聞こえてくる。

 しばらくして『よしっ』と聞こえた。

『これで安心。もっと早くこうすべきだったんだけどこのトイレがどこにあったんだが全然覚えてなくてさ、あんとき酔ってたから』

「トイレ?今トイレにいるの?」

 蓮がちょっと笑ったのが分かった。

『そうだよ、璃々子の声を初めて聞いた時いたトイレ』

 その時璃々子の目の前の公園のトイレから出てくる人影が見えた。 

 薄暗くなってきた公園を照らす街灯が背後にあって顔は見えない。

「その公園ってどんな公園?」

『どんな公園?ええっと、滑り台があって』

 すらりと背の高い影が辺りを見回す。

 そして璃々子の方を向いた時にピタリと止まる。

 電話が切れる。

 背の高い影が璃々子の方に歩いてくる。

「璃々子」

 久しぶりに見る蓮はやっぱり王子さまだった。

 背が高くてカッコ良くて璃々子の理想の王子さまだった。
「蓮くん」

「璃々子ごめん。ずっと連絡しなくて」

 蓮に逢ったら言いたいことがいっぱいいっぱいあったのに、実際に蓮を目の前にすると胸が詰まって璃々子は何も言えなくなってしまった。

「あと、他にも謝んないといけないことがあって、璃々子のところから腕時計」

「知ってる。リョウから全部聞いた」

 蓮はちょっと意外そうな顔をしたが、「そっか」とうなずいた。


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