ストロベリームーン
璃々子の鼓動が早くなる。
次に何を言われるのだろうか。
実は、で切り出される別れ話をされるのだろうか。
「実は」
キタ。
みっともなく、美しく。
「就職しようかどうするかずっと迷ってた。なんか自分が情けなくなってきちゃってさ。いつまでこんなことやってるんだろうって。今はまだ若いって言われてても、歳なんかすぐにとる。でもそれはそれで自分さえ気にしなければいいと思ってた。璃々子に会う前までは。でも璃々子に会ってから違ってきたんだ。璃々子の前ではもう少しちゃんとした男でいたいと思うようになってきた。ただでさえ若くて頼りないんだから」
「そんなこと全然気にしなくていいのに」
蓮は眉毛を八の字にして、とても愛おしそうに璃々子を見た。
「そんな風に言ってくれるのは璃々子ともう1人だけだよ。あとはみんないつまでも音楽なんてやってないで早く就職しろ、って言う。仕事しながら続ければいいじゃないかって」
でもそれじゃダメなことを璃々子は知っていた。
蓮はホストのバイトでさえも毎日出て欲しいと言われて辞めたのだ。
仕事の片手間ではなく本気で蓮は音楽に向き合いたいのだ。
「でもそれじゃ蓮くん嫌でしょう」
蓮はうなずく。
「それに結局は就職するの止めたんだ。まだ全力で挑戦しようって決めた」
璃々子は小さく頭を縦に振る。
「うん、うん、蓮くんはそれでいいと思う」
「璃々子、璃々子は僕がずっとこのまま売れないミュージシャンでも、いつかただの夢見るおっさんになっても好きでいてくれる?みっともない男になっても変わらずにそばにいてくれる?」
蓮の目は真剣だった。
覚悟を決めた目だった。
それに比べて璃々子は蓮に別れ話を切り出されたら潔く別れようと思っていた。
みっともない女になりたくなくて、大好きな蓮とさよならをしようと思っていた。