ストロベリームーン
でも今璃々子の目の前に立つ蓮はみっともない男になっても璃々子と一緒にいたいと言ってくれている。
璃々子はずっと思っていた。
自分が蓮を想う気持ちの方が蓮よりはるかに大きいと。
蓮にとって自分は通りすがりの女にすぎないだろうと。
蓮が自分との遠い将来を考えるはずはないと。
「蓮くんはどうしてこんなわたしをそんなに好きになってくれるの?」
璃々子が蓮にずっと聞きたかったこと。
蓮にとってはおばさんの璃々子、たいして美人でもなく、所持金も普通よりちょっと上くらい、人をあっと言わせるような特殊能力を持っている訳でもなく、極めつけに馬鹿とくる。
「理由なんてないよ」
「でも前に焼肉屋さんでわたしが同じ質問をした時、蓮くんなにか言おうとしてたよ」
蓮は少し考える素振りを見せ、「ああ」とつぶやいた。
「その時はたぶん璃々子は僕に一般論を押し付けないからとか、そういうことを言おうとしたんだと思う。でもそれが璃々子を好きな理由の全てじゃない。璃々子が知りたい気持ちは分かるよ。僕だって例えば僕と璃々子みたいな2人が出てくる映画や小説があったら“絶対この男裏がある、怪しい”って思って、まさか純愛の話だとは思わないと思う」
蓮は短くハッと笑う。
「でも敢えて理由を探せばそうだなぁ」
蓮は頭を傾げながら空を見上げて「あ!」と指差した。
指差す先に大きな赤い月が出ていた。
「すごい、おっきくてピンクでなんか可愛い」
月に見とれる璃々子の横で蓮がスマホを読み上げる。
「ストロベリームーンだって。月の高度が低い夏至の時期に見られる。赤く見えるのは大気中のホコリやチリ、水蒸気の影響を受けるから。夕日や朝日が赤く見えるのと同じ。大きく見えるのは目の錯覚」
「なんか蓮くん全然ロマンチックじゃない、ミュージシャンならもっと他に言いようがあるんじゃない、ちょっと貸して」