ストロベリームーン
スマホに伸びる璃々子の手から蓮は逃れる。
「あ、ストロベリームーンを見たら好きな人と永遠に一緒にいられるって」
蓮はスマホの画面を璃々子に見せる。
「ほんとだ」
璃々子は蓮のスマホを手に取り画面に目を走らせる。
「あれ蓮くんスマホ変えた?」
「それ今日だけ借り物、前の奴ついに壊れちゃってさ」
それでずっと蓮に連絡がつかなかったのか。
璃々子はどこかでそのスマホを見たことがあるような気がしたが、まいっかと蓮に手渡す。
「で、敢えて理由を探せばなに?」
蓮は花柄のケースに入ったスマホをポケットにしまう。
「ああ、そうだなぁ。璃々子は優しいから。と言うと平凡すぎるけど、僕のずっと知ってる年上の女と全然璃々子は違って、なんか癒される」
「璃々子、今度ライブ見に来なよ」
「いいの?行って」
「今度の奴いい感じに仕上がりそうなんだ」
「行く行く、嬉しい」
2人はまた月を眺める。
「璃々子、結婚しようか」
璃々子は驚いて蓮を見た。
蓮はゆっくり璃々子に振り向く。
「璃々子、結婚しようか」
息をするのを忘れていた璃々子は深く深呼吸しようとしてしゃくりあげる。
涙でストロベリームーンが歪んで見えた。
「それで結婚するんですか?」
世那は店に入って来た時から顔が緩みっぱなしの璃々子に訊ねる。
璃々子の横では小春が猫祭りコーヒーを飲んでいる。
「うん」
「コンビニのバイトさえも辞めた無職の男と」
世那は呆れる。
「まぁまぁ、おめでたい話じゃないか」
孝哉は冷蔵庫からビール3本とコーラの瓶を取り出した。
4人で乾杯する。
「小春ちゃんと世那ちゃんはディズニーランドとかで結婚しないの?」
世那はコーラでむせる。
「わたし達は世那が20歳にならないとパートナーズシップはもらえないんで、あと2年は待たないといけないんです」
へぇと、璃々子だけではなく孝哉もうなずく。