ストロベリームーン


 相手の男はもともと会う気なんてなかったのか、それともどこからか璃々子のことを見ていて、カモか商品か分からないが、とにかくモノになりそうじゃなかったから姿を現さなかっただけだ。

 つまり璃々子は不合格だったのだ。

「たぶん今日中には連絡来ると思うし」

 来る訳ないだろ、もう永遠に来ないよ。

 黙って璃々子の話を聞いている孝哉まで馬鹿なんじゃないかと思えてきた。

 カウンターに置いた璃々子のスマホが鳴った。

 ラインの着信音だ。

「あああっ!Ren君」

 璃々子は半ば叫ぶようにしてスマホに飛びついた。

「うん、うん、ええっーーー!!大丈夫なの?うん、ううん、わたしはぜんぜん平気。うん、うん」

 璃々子は通話を切るとふぅとため息を漏らした。

「Ren君、事故にあったんだって」

 嘘に決まってんだろ!

 璃々子が言うにはRenは待ち合わせに向かう途中でバイクに当て逃げされ、幸い怪我はかすり傷程度だが、それを見ていた通行人に一応警察に届けた方がいいと言われ今になってしまったのだそうだ。

 嘘をつくならもう少しそれらしい嘘をつけ。

 世那は心の中で毒づいたがもちろん口には出さない。

「約束は来週になった!」

 店に入って時は塩をかけられたナメクジみたいだった璃々子はすっかり元気になっている。

 馬鹿は死んでも治らないと言う実例を目の当たりにした世那は呆れるのを通り越し清々しい気分にさえなった。

「良かったですね、璃々子さん」

「うん、良かった」

 璃々子は世那の手を握るとぴょんぴょん跳ねた。

 世那も同じように跳ねる。

 わたしここでずっと働いていたら役者になれるんじゃね?




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