ストロベリームーン
何かで2人が揉めた際の殺人ではないかと思われているが、表向きはあくまでもストーカー殺人になっていた。
孝哉は終始無言で、起訴内容をそのまま受け入れたという。
「実はね」
世那は孝哉の寝室の壁一面に貼られている写真のことを小春に言った。
「でもそれって隠し撮りした奴かもよ」
「違う、写真の中の彼女はちゃんとこっち見てた。小春は孝哉さんがストーカー殺人犯だと思ってるの?」
「分からない。そうだとしてもちゃんと罪を償った人をいつまでも責め続けてはいけないと思うし、孝哉さんが公で何も言わなかった以上真相は薮の中だもんね。でも世那のその話を聞くとなんだかちょっと怖いかも」
確かに18年前に殺した女の写真を壁一面に貼っているというのは異常だ。
小春は写真を撮る側の心理を熟知しているからこそそう思うのかも知れない。
でも実際に写真を見た世那は孝哉に恐怖を覚えるどころか、孝哉の底なしの苦しみを感じて悲しくなった。
「わたしは孝哉さんが面識のない人を殺すような狂ったストーカー殺人犯だとは思わない」
「まあね。孝哉さんって普通に素敵な人に見えるじゃない。でもそんな人の中に狂気が潜んでいたりしてもおかしくないよね。最終的に何を信じるかじゃない?」
世那は孝哉の心は病んでいるとは思うが、それは狂気とは違うように思えた。
それとも心が病んだり壊れてしまっていることを狂気と呼ぶのだろうか。
そうだったら狂気とはなんと哀しいものなのだろう。
気が狂ってしまえば楽だと思うのはきっと間違っている。
狂うということは辛くて苦しいことなのだ。
笑っていても心は泣き叫んでいるのだ。
その苦しみはそれを体験した者でなければ決して分からないだろう。
「孝哉さんがバイト辞めたかったら辞めていいって」
「辞めるの?」
世那はしばらく考え首を横に振った。