ストロベリームーン

「だよね。もともと知らない人だったらすぐに‘怖い’って感情が先に来て逃げちゃうだろうけど、ある程度知っちゃってそれもいい人だったりすると、そんな簡単にはいかないよね」

 世那もバイトを初めてすぐだったら辞めたかも知れないと思った。

 でも少なくとも孝哉という人間に触れたあとで、世那は孝哉を通りすがりのニュースで見る殺人犯と一緒にすることはできなかった。

 世那にとって孝哉は殺人を犯したことのある孝哉で、殺人犯の孝哉ではないのだ。

 何もない部屋で彼女の写真に埋もれて毎晩寝、消えない記憶に抗うように手を洗う孝哉は哀れだった。

 もし裁判で孝哉が全てをさらけ出せば、情状酌量の余地があったかも知れない。

 それでも人は言うだろう。

 殺したことに変わりはないと。 

 そしてそれは罪だと。

「なんで孝哉さんは彼女を殺しちゃったんだろう」

 世那の声は涙声になる一歩手前だった。

「聞いてみたら?今度孝哉さんに」

 それはまるで、今日の晩御飯なに?と訊くのと同じくらいの軽さだった。

 世那は呆れて小春を睨む。

「そんな簡単に無理」

「世那がこれからもあの店でバイトするなら、殺人犯としての孝哉さんではなく、丸ごとの孝哉さんと向き合っていくつもりなら、訊いてみてもいいんじゃない?腫れ物に触るように接しなくてもさ。あんまり深く考えずに普通に接したらいいと思う」

「なによ、さっきは自分もちょっと怖いかもなんて言ったくせに」

 小春はへへっと笑った。

「信じようよ」

 小春は世那の手を取った。

「孝哉さんを」

 世那はその手を握り返す。

「うん」

 やっぱり小春が恋人で良かった。

 世那はもう1度強く小春の手を強く握った。


 
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