ストロベリームーン
ストロベリームーン
孝哉は窓際に立ち空を見上げた。
厚い雲で覆われたどこを探しても月は見えなかった。
窓に映った自分と目が合う。
「僕も歳を取ったな」
孝哉は独り言ちた。
あれから18年も経ったのだ。
いつからだったのだろう。
彼女に恋心を抱き始めたのは。
覚えてないくらい昔だ。
でもずっと好きだったことだけは覚えている。
彼女は僕らとは違う制服に身を包み、どこか遠くの学校に通っていた。
その頃の友だちが、あの子はお金持ちの子だから同じそんな子ばかりが通う学校に行ってるんだと教えてくれた。
彼女と話すようになったきっかけは、まるで作り話のようだけど彼女が落としたハンカチを僕が拾ってあげたことから始まった。
僕が中学に上がった頃だった。
それから顔を合わせれば軽く会釈する程度だったのが、少しづつ言葉を交わすようになった。
彼女はいつも『お父さんが怒るから』と僕と遊ぶ時は人から見られないようこっそり隠れるようにしていた。
近所の子と遊んではいけないと言われているのだそうだ。
彼女が変わったのは彼女が中学に入学した春ぐらいだったと思う。
それまでは普通に笑顔の可愛い子だったのが、全く笑わなくなった。
そしてその頃から彼女は夏の暑い日でも体を隠すような服装をするようになった。
女の子らしい服装をしなくなり、髪を短く切った彼女はいつも男の子のような格好をしていた。
だんだんと僕らが遊ぶことは少なくなっていった。
高校に入って彼女はまた急変した。
少女から少年へそして女になった。
この頃はもう僕と彼女はずっと昔、言葉を交わす前の2人のようになっていた。
僕らが知り合いだと知らない僕の男友だちは『あの子、頼めば誰にでもやらしてくれるってさ』と僕に耳打ちしてきて、実際に僕らの友だちの名前を何人かあげた。