ストロベリームーン
『どうしてそんなことするの?』
病室は広いのに、彼女のそばに座れる椅子は小さなものが1つしかなかった。
『わたしの体のせいでお父さんとお母さんが喧嘩するから。子どもを産めないなら男にしてあげた方が良かったのにとお母さんが泣くと、お父さんが今さら仕方ないだろうと怒る。わたしはどっちでも良かったんだけど』
大きな窓にかかっている白いカーテンが風で揺れた。
彼女は性別がはっきりしない状態でこの世に生まれて来た子どもだった。
インターセックスと言われ、日本では昔は半陰陽などと呼ばれていた。
彼女はXY染色体を持つが男性ホルモンに体が反応しないため外見は女だが、卵巣や子宮が不完全なため子どもを作ることはできない。
『でもだからと言って、精子が作れるかって言うとそれもできないんだよね』
彼女は自嘲気味に笑う。
僕はなんて言ったら良いのか分からず閉ざした唇をときどき噛んだ。
『中学に入ってそれでも体が女らしくなってくると、なんだか急にそれが嫌になってね、普通の女の子でもそういうことよくあることらしいけど、わたしの場合それが激しかったの』
彼女が急に男の子みたいな格好をしだした時のことを僕は思い出していた。
『でもある時吹っ切れて、女で生きて行こうと決めたの。でもそうしたらそうしたで、本当の女になりきれない自分が不安で不安で、男の人とセックスしている時だけが自分が本当の女になれたような気がした』
彼女が男でも女でもない、または男でも女でもある、と聞いても僕には彼女が女の子にしか見えなかったし、彼女も女として扱われることを望んでいる。
『子どもが産めない女性は世の中結構いるらしいから、君は特別じゃないよ』
彼女の辛さをこれっぽちも理解できないのを分かっていながら僕は苦し紛れに言った。
他人事で浅はかな僕の言葉に彼女は怒ることなく弱々しく笑ってくれた。