ストロベリームーン
『孝哉といると子どもの頃に戻ったようで楽しい。まだ自分が普通だと思っていた頃』
『君は今でも普通だよ』
彼女は、もういいよ、と僕を諭すような目をした。
『最初は良かった、いろんな男たちと寝ても。でも……、嫌になって、それがもう嫌なのに止められなくて。やったことないけどドラックってこんな感じなのかな、とか思ったりして。わたしちゃんとした女の子じゃないけど、ちゃんと取っておけば良かったって、大事な本当に好きな人のために取っておけば良かったって思ったの。でも止められないの。わたし体だけじゃなくて頭までおかしくなっちゃった』
彼女が涙声になったので僕は動揺して『大丈夫だよ、変なんかじゃないよ』と慰めたが、その言葉は広い病室に空々しく響くだけだった。
『こう言うのってセックス依存症っていうのかな。それともわたしの場合はちょっと違うのかな。でもそんなこともうどうでもいいけど』
彼女は懇願するような目で僕を見た。
『わたしもう死にたい。でもわたし弱虫だから自分じゃちゃんと死ねない。孝哉、わたしを殺して。わたしこんなぐちゃぐちゃの体の中にこれ以上居たくない』
僕は体を引きながらかぶりを振った。
『お願い、わたし孝哉に殺されたい』
彼女の目に一筋の涙が伝った。
孝哉に殺されたい。
僕はごくりと生唾を呑み込んだ。
その言葉はセックスよりも何よりも僕を興奮させた。
僕が知らないだけで僕にはもともとそういう願望があったのかも知れない。
彼女はたくさんの他の男の物で、僕だけが仲間外れにされていると思っていたのが、急に彼女が僕だけの、僕の支配下にあるように感じた。