ストロベリームーン


 窓ガラスを叩く音がした。

 世那にはそれがもう誰だか分かっていた。

 隼人だ。

 この店は隼人の通学路にあるらしく、前を通りかかる時こうやって窓ガラスを叩いたり、店が暇な時は中に入ってきてしばらく話していったりする。

 どんだけバイトが好きなんだ。

 自分はバイトの時間以外は店の近くにも近寄りたくない。

 今日は隼人は窓ガラスを叩くだけで店の中には入って来なかった。

「隼人は世那ちゃんが気に入ったみたいだな」

 孝哉が言った。

「え?」

「あんな風にするのは世那ちゃんが来てからだからさ」

 やめてくれ。

「いや〜ん青春」

 璃々子が体をくねらせる。

 嫌な方向に話が流れそうになったがちょうど上がる時間になった。

 お疲れさまと声をかけ荷物を持ちトイレに入る。

 恋愛には今のところあまり興味ない。

 とりあえずは無事大学を卒業し正社員にならなければ。

 璃々子のように自分の腕で生きていくのもいいが、あいにく自分にはそんなパッションを注ぎ込むものはないし、見つけるつもりもない。

 人は違うのだからそれでいいと思う。

 人生に生きがいを見つけ出さなければいけないと言うはもはや強迫観念に近い。

 ずっと1人で生きていくつもりの訳ではないのでその時期になったら婚活するつもりだ。

 結婚して子どもを産んでももちろん仕事は続ける。

 今や夫婦3組に1組は離婚する時代なのだ。

 結婚なんて信じられるか。

 だから旦那になる男は子育てを率先してやってくれ、離婚することになっても冷静さを失わないような男がいい。

 隼人みたいなのはその真逆をいくタイプそうだし、璃々子は仕事はいいとしても恋愛がお粗末すぎて話にならない。

 孝哉みたいのが収入は不安定そうだが精神は安定してて結局バランスがいい気がする。


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