ストロベリームーン
人生は計画が大切だ。
自分の性格と現実を考慮して人生設計を立てる。
世那は自分の立てた計画通りに人生を生きることに生きがいを感じる。
今のところまぁまぁ上手くいっていて合格じゃないだろうか。
トイレから出ると璃々子の横で孝哉がタバコを吸っていた。
孝哉は閉店まぎわ客が誰もいなくなるか、こんなふうに馴染みの客が1人だけになったりするとカウンターで一服する。
「孝哉っちもさぁ、新しい恋しなよ」
璃々子がしんみりした声で言う。
え?
世那は改めて孝哉の指輪を確認する。
やはり左手の薬指だ。
この馬鹿璃々子が!人に不倫を勧めてどうする。
璃々子が突っ立っている世那に気づく。
「世那ちゃん、孝哉っちったらね、ずっと別れた奥さんのことが忘れられないんだって。なんか一途だけどさぁ。新しい恋して幸せになった方がいいよね。だってさみしいよ、そんなの」
そうだったのか。
その指輪は現在進行系の誓約の印ではなかったのか。
それにしても別れた後でも結婚指輪をしている男なんて初めて会った。
何かよほどのことでもあるのかも知れない。
世那は璃々子のように軽々しく発言できず黙ってしまう。
「そんなに寂しく見えますか?じゃ、これ外した方がいいかな」
孝哉は冗談ぽく笑った。
「外しちゃいな、外しちゃいな」
璃々子が孝哉の指に手を伸ばす。
やめろ璃々子!無神経な馬鹿は最低だぞ。
「違うんですよ、これは」
孝哉はさりげなく璃々子の手から逃れる。
「僕への戒めというか、同じことを繰り返さないようにというか、悔やんでも悔やみきれないことがあって」
「なに孝哉っち、浮気でもしてたとか?それが原因で別れた?」
孝哉は笑って首を横に振ると指輪を撫でるような仕草をした。