ストロベリームーン
「違います。実はこれは結婚指輪じゃないんです。指輪の相手は昔の恋人です。その人はもうこの世にはいません。ずっと前に亡くなりました」
3人しかいない店内だが水を打ったように静まりかえる。
さすがに璃々子もしゅんとなった。
「だから愛しい人が生きているうちはみんな後悔しないように愛しぬいた方がいいです。伝えたいことやってあげたいことは躊躇せずにやった方がいいです。相手がいなくなってしまってはそれはできませんからね。だから璃々子さんも新しい彼と頑張ってください」
孝哉はせっかくいい事を言っているのに最後が余計だ。
案の定璃々子はすぐに調子に乗る。
「Ren君にラブラブスタンプ送っちゃおう」
馬鹿璃々子のように切り替えができない世那に孝哉は爽やかな笑顔を見せた。
「世那ちゃん、お疲れ」
一礼して店を出る。
空を見上げると重い雨雲が立ち込めていた。
愛する人がこの世からいなくなってしまうのって、どんな感覚なんだろう。
孝哉の悔やんでも悔やみきれない事とは何だろう。
世那には全く想像がつかない。
これから自分もそんな経験をするのだろうか?
それが大人になるということなのだろうか?
世那は歩く足を早めた。
急がないと雨が降りそうだ。
傘は持っていない。
それから1週間後、璃々子はまたもやRenにすっぽかしを喰らった。