ストロベリームーン
3度目の正直だった。
璃々子はRenに指定された駅の改札に立っていた。
あまり降り立ったことのない駅の景色を最初はもの珍しげに眺めていたがそれももう飽きてしまった。
約束の時間を15分過ぎていた。
さすがの璃々子もまたかと思った。
なんとなくこうなるような気もしていた。
下着はもう新しいものは身につけてこなかった。
わずかに明るい空にぼやけていた街のネオンが今は夜の闇を鮮やかに彩る。
璃々子はバックからスマホを取り出した。
数週間Renからの連絡だけを待ち続けた。
スマホ=Renだった。
ここからRenを追い出してしまえばRen がいない日常に戻れる。
戻るんだ。
Renを削除するんだ。
うつむいた璃々子の視界の端でピンク色のパンプスが大きな皮靴と一緒に踊るように通り過ぎていった。
取り残される璃々子のシルバーのヒール。
「あの、すみません」
行儀よく並んだ璃々子のヒールの前に黒い靴が向き合った。
生の声が空気を震わせる。
誰かと尋ねなくても璃々子には分かった。
「Ren君」
顔を上げる。
目の前に立っていたのはわらじとはほど遠いイケメンだった。
まるで白馬の王子。
「やっぱりRirikoさん。遅れてすみません」
庶民の璃々子に頭を下げる王子に璃々子が慌てて「いいのいいの」と両手を振ると、王子は白い歯を見せ笑った。
「初めまして、神崎蓮です」
「さ、佐伯璃々子です」
すらりと背が高く痩せ型だが貧弱ではない。
肩にかかる長めの髪、今どき若い子には珍しいしっかりとした顎つきが男らしさを強調している。
形の良い鼻に同じように形の良い薄めの唇。
そしてその鋭い切れ長の目。
璃々子の胸が子犬のようにキュンと鳴いた。
璃々子はRenに恋し、蓮にすっかり囚われた。
庶民から子犬になった璃々子の首には赤い首輪がはめられて、そこから伸びるリードを持つのは蓮王子。
「行きましょうか」
王子はリードを引いた。
璃々子はこくんとうなずいてその後をついて歩く。
王子の背中には大きなギターケースが抱えられていた。