ストロベリームーン
腕組みをした孝哉は窓の外を眺め目を細める。
「なんでそう思うの?」
「歳の差もありすぎるし、バンドマンなんて貧乏じゃないですか、璃々子さんは小金持ちそうだし、若い男の体目当ての年増に年増の金目当ての若い男。絵に描いたような組み合わせですよ」
「でも璃々子さんは幸せそうだからいいんじゃないの?」
孝哉の答えに世那は鼻の穴を広げ呆れる。
「あんなの本当の恋愛じゃないし、幸せだって見せかけです」
「下心のない恋愛なんてないし、幸せを決めるのは本人であって周りじゃないよ」
反論できない、でも納得いかない。
勝手に孝哉に腹が立ち、世那はわざと大きな音を立ててグラスを洗った。
目の前の人が騙されているのに知らん顔をするというのか。
それって最低だ。
思いっきり強く蛇口を閉めると世那は手を拭こうと辺りを見回す。
孝哉が世那の目の前に白い布巾を差し出した。
「世那ちゃんは真面目で優しいんだね」
「は?」
「璃々子さんのために僕にそんなに怒ったりしてさ、世那ちゃんは熱い子だね」
「そんなことないです」
世那は孝哉から布巾をもぎ取る。
優しいとか、熱いとか言われたのは初めてだった。
その逆を言われてきたし世那自身もそう思っている。
新しい布巾はいくら拭いてもまだ手が濡れているようだった。
なんだか居心地が悪い。
コツンと窓ガラスが鳴った。
隼人が手を振り通り過ぎて行く。
恥ずかしいくらい青春という文字が似合う光景だった。
世那を黙らせてしまう発言をすらすらする孝哉もあんな時期があったのだろうか。
指輪の人との恋はどんな恋だったのだろう。
「孝哉さんは今幸せなんですか?」
世那は孝哉の指を見つめる。
「幸せだよ」
すぐに答えが返ってきた。
孝哉は左手をあげると右の人差し指で指輪を指した。