ストロベリームーン
ある日いつも1人で来るその人が強烈なのを連れてやって来た。
店にいた他の常連客たちはあからさまにじろじろ見たりはしないが、意識がそっちに向いているのが分かる。
「なによぉ小春ぅ、こんなオシャンぴーなとこに来ちゃってんのよぉ」
分厚いファンデーションの上からでも触るとジョリジョリしそうな顎。
オカマとかオネエとか言うよりドラッククイーンという呼び名がふさわしい。
2人はいつもの窓際席に座った。
ほぼ一方的に話すドラッククイーンのボリュームのでかい声が店内に響く。
否が応でも話の内容が分かってしまう。
名前、小春って言うんだ。
まるで前からその名前が知りたかったように、世那はちょっと嬉しくなった。
小春の笑い声が聞こえた。
反射的に世那は笑い声の方を見る。
あんな風に笑うんだ。
小春は30分ほど店に滞在してドラッククイーンと出て行った。
世那はトレイを持ってテーブルを片付けに行く。
ドラッククイーンのカップにはべっとりと赤い口紅がついていて、とてつもなく不潔に見えた。
一方小春のカップは綺麗で猫祭りコーヒーの甘い香りが漂ってきそうだった。
世那には小春の飲んだコーヒーカップがただの洗い物ではなく特別な何かに見えた。
この日を境に小春は世那の意識に侵入し始めた。
店のドアベルが鳴る度に期待と共に入り口の方を見る。
それが小春でないと無意識にわずかなため息が出て、そこに小春を発見するとにわかに心臓が高鳴った。
そんな自分に気づき世那は慌てる。
これじゃまるで中学生の百合じゃないか。
確かに小春にはそういう雰囲気があった。
女子校で後輩に告白されたり、バレンタインに女の子からチョコをもらったりするタイプ。