ストロベリームーン
これをきっかけに世那は小春と会話するようになった。
もっと年上だと思っていた小春はまだ20代で、世那は自分が人よりも大人っぽいと自負していたのが恥ずかしくなる。
小春は雑誌のライターの仕事をしていた。
小春と話をするようになって世那の気持ちに拍車がかかった。
ブレーキの壊れた車輪が坂道を転がり落ちるようだった。
どこかで気持ちが萎えることを期待していた。
よくありがちな会話してみると普通だった。
そうなることを願っていた、のに。
小春が率先して自分の話をしたのは最初のネコ祭りの時ぐらいで、小春は人の話を聞くのが上手かった。
それもあまり深くプライベートには突っ込まず害のないことを聞いてきてそこから話を広げる。
孝哉や世那と会話するようになって小春は時々カウンターに座るようになった。
小春が帰るとまるで日が暮れたように店内は陰って見えた。
バイト中はもちろんのことバイト以外の時も小春のことを考えるようになった時、さすがにこれはやばいと世那は思った。
これはきっとしばらく男と付き合っていないからだ。
誰でもいいから速攻男と交わった方がいいかも知れない。
本気でそんなことを考え始める。
手頃なのはいる。
隼人だ。
でもバイト先で肉体関係を持つのはいかがなものかと思う。
それに隼人を切る時はバイトを辞めなければならないだろうし、今まだあそこは辞めたくない。
世那の男友だちのファイルを頭の中でめくる。
目ぼしい人材を見つけることはできなかった。
こうなったらいっそのこと男を買ってみようか?
馬鹿らしい、やめた。そもそもそんなお金ないしそれじゃまるで璃々子と同じだ。
世那は肩でため息をついた。