ストロベリームーン
リョウ
蓮は腕をすっと前方に伸ばした。
「ここをまっすぐ行くと2丁目ですよ。ゲイバーとかある」
蓮の反対側の腕にぶら下がった璃々子は指差す方向ではなく蓮の顔を見ながら「ふーん」と適当にうなずく。
「興味ないですか?おかまバーとか」
「ない全然。だってみんな男が好きなんでしょ。わたしには関係ないし」
「へえ璃々子さん珍しいですね。女の人はみんなおかまバーとか好きなのかと思ってました」
「わたしが興味あるのは蓮君だけ。ねえそれより敬語使うのもう止めようよ。さん付けもだめ。璃々子って呼んで」
璃々子は蓮の腕に頭を擦りつける。
蓮は体をぎこちなく動かした。
「璃々子、今日は本当にごめん。僕店に入ってから1人も客呼べてなくて、でも初回はぜんぜん高くないから」
「うんうん、そんな感じ」
璃々子は蓮の腕にぶら下がったままスイングするように体を揺らした。
蓮はメンキャバ、いわゆるキャバクラの男版メンズキャバクラで働いていた。
前に電話で話していた新しいバイトの面接というのはそのことだったようだ。
バンドマン=いつも金欠のイメージは本当だった。
蓮はかなりお金に困っているようではっきりとは言わないがいくらかの借金もあるようだった。
「指名料とかちょっとかかっちゃうけど、ホント嫌だったら今日だけでもう来なくていいからさ」
「わたし1度行ってみたいと思ってたんだ〜、だから楽しみ。ねぇねぇお店ではなんて呼ばれてるの?」
すれ違う人に蓮と同じような若い男が増えてくる。
彼らは一様に長めの髪を明るく染め、頭を高く盛っている。
「蓮だよ、そのまま」
「そのまま本名使ってんだ」
「うん」
蓮は自分の腕から璃々子を引き剥がすと、その手を握った。
「行こうか璃々子」
璃々子はうなずく。