ストロベリームーン


小春は世那より背が高い。

小春を見上げるかたちになる。

これは夢か妄想か。

「世那ちゃん具合でも悪いの?」

「ちょちょっとお腹が痛くて」
 
 妄想だとこのあと小春に優しい壁ドンをされるのだがやはり現実は違った。

そんなことあるわけないのだ。

「トイレお待たせしちゃってすみません」

 世那は体をよじって小春の横を通り過ぎた。

「あれ、わたしの弟だから」

 世那は振り返った。

 トイレの扉が閉まる隙間から小春の姿が見えた。

 ど、どういう意味!?

 店内に戻る。

 指先が震えるほど動揺している。

 窓際に1人座るキザ男を見やる。

 そう言われると小春と似ていなくもない。

 いや全然似てないよ。

 しばらくするとトイレから出てきた小春は席に戻った。

 いつも通りで何一つ変わったところはない。

 あれ、わたしの弟だから。

 考えてみれば別に意味などないのかも知れない。

 そのままだ。

 あれ、わたしの弟なの。

 あ、そうなんですか、あんまり似てないですね。

 って、感じな。

 視線を感じて世那は顔をあげる。

 小春が見ていた。

 世那をじっと。

 世那も小春を見る。

 その瞳に吸い寄せられるとかそんな柔なものじゃない、小春の瞳はまっすぐに世那を射ていた。

 小春と世那の間だけ時間が止まる。

「おっはようございます!」

 店の客の全員が注目するほどの大声で隼人が入ってきた。

 孝哉が冷蔵庫に貼っているシフト表を覗き込む。

「あ、講義が休講になったんでここで時間を潰そうかと思って」

 隼人は世那の目の前のカウンターに座り、ドライカレーとコーヒーを注文した。

「さては世那ちゃんが目当てだな」

 常連客の1人が冷やかす。

 隼人はそんなんじゃないっすよ、と言うが全然本気で否定してるっぽくない。




< 31 / 153 >

この作品をシェア

pagetop