ストロベリームーン
休みの日は何をしているのだとか、好きな音楽は何だとか隼人は何かと世那に話しかけてくる。
適当に受け答えするがだんだんと隼人に腹が立ってくる。
孝哉は察したのか、世那に裏にまわるような仕事を与えた。
つい先週したばかりのコーヒー豆の整理をしていると孝哉がやってきた。
「隼人には今度それとなく僕から言っておくからさ、ごめんね」
「孝哉さんが謝ることなんてないです。馬鹿なのはあいつですから」
そうだあいつだ。
こんなに気の利く孝哉さんと同じ男とは思えない。
もしこの店のオーナーが孝哉さんじゃなかったら絶対に辞めていたと思う。
表に戻ると待ってましたとばかりに隼人が話しかけてくる。
こっちが迷惑がっているのが分からないこの馬鹿男。
逆効果だと分からないのか。
こいつ絶対何も考えちゃいない。
考えなしの感情だだ漏れ馬鹿だ。
「もう2人付き合っちゃえばいいじゃん」
さっきの客が言った時、小春が伝票を持って席を立った。
あっという間に会計を済ませると弟を従わせ店を出て行く。
「おごちそうさま」
小春は孝哉だけに言った。
小春は世那を1度も見なかった。
気づいたら世那は小春の跡を追っていた。
「小春さん」
振り返った小春は少しだけ驚いた顔をして立ち止まった。
「あの」
小春が弟に目配せすると弟はそのまま行ってしまった。
小春と2人きりになる。
追いかけて声をかけたのはいいがその後のことは全く考えてなかった。
「あの隼人くんとはなんでもないんです」
言った瞬間から後悔する。
「ああいう風にされるの迷惑で」
なのにしゃべり続けてしまう。
だが遂にここで黙ってしまう。
先が続かない。
小春も黙っている。
そりゃそうだ、なんて返したらいいか分からないだろう。
沈黙がいたたまれなくなって、それじゃあと店に戻ろうとすると小春が言った。